もともと知っていた曲ですが、
歌った事はありませんでした。
ピアニスト塚田佳男先生構成の「にほんのうた」コンサートは
先生が選曲をして下さいます。
今回、この曲を歌わせて頂く機会をいただきました。
先生のピアノの音色が美しくて、
三木露風の詩が力強くて、
山田耕筰の曲が大きくて、
少しでもこの世界観に添える歌唱をしたいと
思う次第です。
「野薔薇」
野ばら 野ばら
蝦夷地(えぞち)の野ばら
人こそ知らねあふれさく
いろもうるはし
野のうばら
蝦夷地の野ばら
野ばら 野ばら
かしこき野ばら
神の御旨(みむね)をあやまたぬ
曠野(あらの)の花に
知る教(おしえ)
かしこき野ばら
「人こそ知らね」=人に知られず
「うばら」=イバラ(バラの古い別名)
「神の御旨をあやまたぬ」=神の御心に背かない
作詞者は、近代日本を代表する詩人の三木露風(みき・ろふう、1889-1964)
露風は1916~1924年の間、北海道上磯町(現・北斗市)のトラピスト修道院で文学講師を務め、
その間に洗礼を受けてカトリック教徒となりました。
1917年(大正6年)の7月、三度目のトラピスト修道院訪問の途中、
函館で院長と出会って一緒に山を越えました。
その折りに道端で見た薔薇のことを書いたのが、上記の「賢き野ばら」の詩です。
なお、露風が見た「野ばら」とは、
北海道を代表するバラ科の花「ハマナスのことです。
古来日本では棘のある植物を総称してイバラ/ウバラ/ウマラと呼んでいましたが、
後に今日イバラ、バラとされるバラ科バラ属の植物に中国語の薔薇(そうび/しょうび)を当てて
バラと称するようになったそうです。更には中国語でバラは実際には長春花といい、
「薔薇」は中国では山東半島に分布するハマナスのことであるとも言われます。
露風はこの詩を絵葉書に書いて山田耕筰に送り、
耕筰が曲をつけて歌曲となりました。
前奏の節分音は、汀にたゆたうさざ波の音を模しています。
歌が始まると伴奏のさざ波のゆらぎが徐々に大きくなり、
ついに大きな力となって汀に迫り来るような旋律となります。
それからまた小さなゆらぎとなり、祈るような心境で歌い結びます。
人に見られることもないのに、
「神の御心に沿って、荒れた野で、色美しく咲く…」
そんな野薔薇の姿を見ると、
神の教えを知ったような気がして心洗われる…。
静かで透明感のある、敬虔な祈りの歌です。